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森茉莉と室生犀星 森茉莉の嘆き、その色合いを考える

「贅沢貧乏」であるマリの部屋。自らの信じる美を、美を象徴するものたちを、多くの甘やかな夢想を、徹底的に詰め込み、作り上げた、マリの部屋。敬愛する犀星の来訪に際し、マリの心は喜びに、惑いに、慌ただしく動く。マリの部屋はいわば、空想の宮殿。華麗な夢の輝きを散りばめた、唯一無二の宮殿。だが犀星は、その煌めきを感じることなく、貧寒の哀しみ、現実面の冷感だけを、その部屋から切り取り、描いた。マリは嘆く。犀星が訪れた時、マリの部屋は本来の姿ではなかったと、落胆する。

《こうしたわたしたちの、わたしたちなりの贅沢は、殿方にはついに理解不可能なのでしょうか》《茉莉さんの身辺が貧寒だなんて、少なくともわたしは一度たりとも思ったことがないのに》(矢川澄子『「父の娘」たち』)
森茉莉と室生犀星の応酬、矢川澄子は森茉莉の方に分があるとしているが、この言は森茉莉の嘆きに対する慰めとして、いまいち適切なものではないように感じられる。

物や空間に徹底したこだわりを持ち、独特の感性によって、物事から独特の美を見出す。そしてそれを余すところなく追求し、築き上げた自らの世界にどっぷりと浸りながら、満たされた夢を見る。森茉莉と室生犀星の共通点は、この辺りにあると思う。犀星にとってのそれは、壺であり、庭であり、また女人であり、対象物こそ異なれども、その愉しみ方自体は、森茉莉のそれと、よく似ている。しかし二人はそれら、物や空間に対するこだわりの切実さ、自らの手で作り上げた世界の愉しみ方が似たものであったとしても、互いにそれぞれの世界のよさを語りかけたり、理解を求め合うことをしない。そもそも互いの世界が両者の間で理解し合えるものではないことを、当然のように、悟っていたのだろう。彼らは恐らく、自らの美意識に、自らの欲求に、共感を必要としてはいない。

森茉莉の嘆きは、部屋という空間内に散りばめた自らの夢想を、夢想が放つ煌めきそのものを、犀星が理解しなかったことに対するものではなく、それはむしろ、犀星が、森茉莉の美を愛する心、森茉莉の美への陶酔を見ずに、あくまでも現実的な貧寒だけを切り取ったことに対する、その仕打ちに対する、嘆きなのではないか。悲しいのは、自らの作り上げた世界、美意識の象徴である空間そのものの魅力、良さへの無理解ではなく、自らの美の世界を作り上げるという姿勢の切実さ、美に浸るという愉しみ方の、真実味への無理解。森茉莉と室生犀星、矢川澄子の指摘する、両者のずれは当然存在する。だがそれは、森茉莉にとって、美意識そのものに共感を必要としない森茉莉にとって、嘆くほどのものではないはず。あの嘆きは、森茉莉自身の、美に対する礼賛へのひたむきさを、敬愛し、どこか自らと似たものを感じる犀星という人物に、汲み取ってもらうことが出来なかったからこその、嘆きであるように思う。
汲み取ってもらうことが出来なかった…としたが、犀星は、森茉莉の趣向を汲み取ることが出来なかったのではなく、汲み取った上で、あえて描かなかったのではないか、と思う。感じ取っていながら、意図的に黙視したのではないか。

犀星の来訪時、マリの部屋は本来の状態ではなかったと言う。マリ自身の哀しみによって輝きを失っていた夢想たちの魔力よりも、極めて現実的な貧寒の悲しみの方が、痛ましい憂いとして、犀星の心を強く捉えたのか。或いはもっと別の、何か皮肉めいた意図によるものであるのか。
もし前者であるとするのならば、ただ師としての犀星が持つ素朴な良さの現れとして見ることが出来る。だがもし、後者であるとすれば、森茉莉の嘆きさえもまたその色合いを変え、両者の応酬はまるで違った様相、それまでの印象とはまるで違う、快いばかりではない意図を孕む一幕ともなり得る。

互いの理解の及ばぬ世界をそれぞれ愛し、だがその愛し方がよく似ていた二人。だからこそ交流は深まり、色彩豊かな言葉の応酬は可能となった。つくづく面白い組み合わせであるように思う。
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テーマ : 読んだ本の感想等
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

あげこ

Author:あげこ
あげこ
女、1987年生まれ

読書感想中心。
矢川澄子、幸田文、森茉莉、武田百合子、津島佑子、笙野頼子、河野多恵子、岡本かの子、野上弥生子、皆川博子、津村節子、原田康子、村田喜代子、高樹のぶ子、高橋たか子、倉橋由美子、久生十蘭、室生犀星、武田泰淳、獅子文六…愛しています。

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